JOURNAL REPORT #01
Liberaiders® Director Mei Yong Interview
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新型コロナウイルスの発生、パンデミックが起きた2020年。年が明けた2021年も劇的に改善することは無く依然として厳しい状況が続いている。こんな中、リベレイダースはどの様な内容で新コレクション展開していくのか? その核心をMei氏へ伺っていく。
「前シーズンは当初アメリカに行くつもりでしたがご存知の通り、この状況で行けなくなってしまい(シーズンロケーションが)東京になったじゃないですか? ただ、周囲の反応は自分が想像した以上に好意的でした。東京に対してもこれまで通りに反応してくれるんだ、って。自分たちは東京に住んでいるから分かりにくい部分なんですが、海外からの反応がすごく良くて。東京は今でも注目を集める都市なんだって改めて思いましたね。この大変な環境でも色々実現できたことは自分の中でもすごく自信に繋がりましたし。コロナになってから物理的にどこにも行けなくなったので、自分が今住んでいる都市や国を俯瞰で見る機会も断然増えたんです。日本のこういうところが素晴らしいんだな、って気付きも生まれて。今まではそんなことを考える時間が余りに無くて……。スローダウンしてきた今だからこその気付きですよね。何で海外の人が日本を好きって言うのかが以前よりも理解できるようになりました。住んでいる所に慣れてしまい良さに気が付かず、刺激を求めに海外に行っていたのかもしれないと思いましたね。東京に長いこと住んでいますが、しっかり東京を見たのは昨年の緊急事態宣言の前後。今年の春夏コレクションも間もなくリリースされますが、企画をやっている時期もどこにも行けない状況なのは変わらずでした。その最中、日本で自分の一番好きなところはどこかと考えていたらふと浮かび上がった答えが沖縄だったんです。それで今回のコレクションの舞台を沖縄に決めました。
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一般に沖縄ってリゾートのイメージが強いですよね? 自分は、日本に来て初めて旅行に行ったのが沖縄でした。日本に来てまだ2年目くらいの頃の話です。実はトロピカルな場所に行くのも人生初。それだけに、現地に着いてここは本当に日本なのかって思ったのと同時に、トロピカルアイランドと米軍基地が共存している強烈なコントラストに驚いたのが実際のところでした。その時の印象が結構強烈で、後で色々と調べてみたら第二次世界大戦時、日本で唯一地上戦が行われた場所が沖縄だったり、1972年まではアメリカの領地でパスポートも必要だったとか。知れば知るほど、より特別なイメージが自分の中で生まれていったんです。
日頃東京でも、沖縄の報道を目にする機会が結構ありますよね? 普天間基地問題に関しては移設反対派の知事が当選しましたが、辺野古への基地移設は止まらなかったり、いまだに数多くの問題を抱えています。過去を振り返ると、敗戦後の1945年にアメリカの統治下に入り、同時に米軍基地の建設も始まりました。その後、朝鮮戦争、ベトナム戦争を経て1972年にようやく日本は敗戦の失地回復を果たします。沖縄が日本に返還され、経済もカムバックさせていったのは周知の通り。本土返還前は基地依存の消費型経済でしたが、返還後は観光産業を主とした民間主導の自立型経済に変わっていったのも印象深い。そういった沖縄の人達の強さにも興味がありました。
あとは音楽も得意な島じゃないですか? 僕が若い頃に聞いていたミュージシャンも多くて。トロピカルな場所なのでアイランドミュージックがベースですが音楽を通して琉球文化やアメリカの文化、日本の文化と様々な文化のミックスを感じます。沖縄には何度か行ったことがあるのですが、いつもそういう視点で見てしまうんです」。
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日本でありながら、アメリカのカルチャーを大いに受ける沖縄。それは恒例となっているポートレート撮影からも明確に伝わってくる。
「(沖縄の人のイメージは)僕から見たら沖縄の人たちは温和で、明るくて、アイランド的なところも土地柄そのまま。でも、独特の文化を持っていると思います、食べ物にしても、文化にしても。琉球王国の文化をベースに、アメリカの影響も受けている。そのミクスチャー。これだけでもインターナショナルな感じがしますし、現地の若者もしっかり自分を持っている気がします。これは海外の人に会った時と似ていて、精神的に自立していて自分が何をしたいのかがはっきりしている印象です。だから今回、沖縄には美しいビーチやリゾートもありますがそれよりもリベレイダースを通して現地の人がこのコロナ渦でどう過ごしているのか、自分が主観的に感じている沖縄を表現したかった。なかなか旅行では行かない嘉手納基地周辺や辺野古へも足を運びました。嘉手納基地のゲートを出たら一本の商店街があるんです、そこは飲み屋ばかり。実は、米兵がゲートを出てきたら皆そこに入っていく。だから現地の人のための店ではないんです。こんな風に米軍を相手にした生業も未だに残っています。現地で撮影をしながら、これも戦争によって生まれた産物なんだと見せつけられたような気持ちになりました。
解放と侵略ではないですが、こんな部分も含め、自分のブランドのテーマと密接にリンクしていると思えたんです。
60年代から、嘉手納の外のコザ市というところでも複雑な社会問題があり、1970年には、米兵が起こした琉球人に対する交通事故がきっかけで、暴動にまで発展しました。時を同じくして、アメリカでは公民権運動が行われており、コザでも白人と黒人との居住区が分かれている等、人種差別が横行していた。その後、アメリカ国内で行われていた『ブラック・イズ・ビューティフル』というムーブメントが沖縄でも起こっていく歴史があるんです。それもすごいなって。コザ市周辺にはそれを象徴する壁画も沢山描かれています。マッカーサーが描かれた壁画もそうですが、これは歴史的な背景を知らない人では絶対に描くことはできない。ここに行った時は本当に感動しました」。
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戦争の体験を記した壁画のアート。カルチャーが融合した中での“解放と侵略”の史実は今も残る。
「2019年、ベトナム戦争をテーマにしたコレクションの時に表現した“レディオ・サイゴン”もそうでしたが、沖縄の音楽も米軍基地のラジオ局から影響を受けているのではないかと思います。アメリカ軍が、基地の中でもアメリカです、って普通にやっていることでも、現地に大きく影響を与え、カルチャーとして広がっていったんだと思います。東京の福生には横田基地があり、90年代に出てきたストリートブランドも、いくつかは福生から出てきている。洋服の話だけで言っても、1950年代から福生には米兵向けのテーラーがあり、独自の文化を形成してきた背景があります。その後、日本の文化と混ざり合うことで、米軍基地周辺の福生ならではのストリートカルチャーが生まれたのかなと思っています。ということは、沖縄はもっとアメリカからの影響を受けているはず。1990年に発売されたビギンの『恋しくて』という曲も、初めて聞いた時にビックリしました。彼らが沖縄のバンドだと思って聞いていなかったので。ブルースフィーリングがすごく入っていることに衝撃を受けました。でも今にして思えば、彼らが生まれ育った環境の中で自然とブルースの要素は入るし、それがシンプルに出ただけ。この曲からも沖縄って特別な場所だな、と思えたんです。今はデジタルの時代なので、そんなことを考えることもないまま、次々に情報が入ってくると思うんです。でも、僕らの若い頃って、情報が少なくて、カッコ良いと思う先輩たちがやっていることを純粋にカッコいいと思えていました。一方で当時カッコいいと思っている人たちはクセもあった(笑)。カルチャーが好きで、音楽が好きで、自分を持って生きている人たち。そこに絶対の自信を持っているからカッコよく見えていたんです。今の若い世代の子の中にもこの感覚を持っている子達は多いと思うんです。だからこそ、自分自身が、今の年になって経験してきたことや、カッコいいと思うことを、真剣に続けていく事で若い世代にとって良い影響を与えられればいいなと思っています」。
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ブランドの新作コレクションで表現されたオリエンタルな要素や折り鶴ロゴは、
沖縄をベースにしたコレクションだからこその深みが増している。
「日本にいて、僕が感じている日本的な平和の象徴は折り鶴だと思っています。折り鶴は相手のことを想って、病気が治って欲しいとか、スポーツ等の試合に勝って欲しいとか、様々な願いを込めて作るものじゃないですか? それって思いやりの心ですよね。そういったメッセージを込めて、前シーズンからなんですが、折り鶴をリベレイダースのロゴとして採用することにしたんです。一方、ミリタリーをブランドのコンセプトの一つとして掲げていることについてお伝えすると、自分は若いころから戦争映画やミリタリーウェアに対する漠然とした憧れがありました。しかし、考え方が成熟するに連れ、知識的な理解を深めていた時とは別の観点でミリタリーを捉えるようになったんです。もちろん戦争に対して賛同はできませんが、人類の歴史と共に進化してきた技術や産業は、戦争によって発展を遂げたのは事実であり、一つの文化なのだと。でも、ミリタリーのアイテムに平和の象徴である折り鶴のロゴを入れているのはこうした考えと矛盾しているのではないか? と思われる方がいるかもしれませんが、自分の中では意味がある。二度と戦争が起きないことを願ってプロダクトに落とし込んでいるんです。ミリタリー好きと言うと、戦争が好きなんだと思われることがありますが、決してそうではない。ミリタリーのエレメントを自分の洋服で表現する背景には、本当に世界が平和になって欲しいという願いを込めてもの作りをしています」。
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相反する事象をプロダクトに落とし込むのは並大抵のことではない。しかし難解なコンセプトを軸に据えるリベレイダースだからこそ実現できた背景がある。最後に、物作り、プロダクト、人との出会い、現在の心境についてMei氏が話をしてくれた。
「プロダクトを作れば作るほど、このコロナの状況も相まってか自分の価値観も変わってきていることに気が付きます。数合わせの物は正直いらないし、自分が本当に納得の行くプロダクトを作らないと意味がない、とここ最近は強く思うんです。毎回、シーズンイメージを集約したビデオクリップも作成していますが、音楽にも相当こだわっているつもりです。自分の中で大事にしているのは、今流行っているかどうかではないんです。仮に自分の子どもたちが10年後に見た時に、昔コレ流行ったよね、っていう風にはなりたくないので。ファッションの世界でも“極めればベーシック”と言う言葉があるように音楽も同じ。10年後、20年後に振り返った時にも通用する様な、時代を越えて見た人が何かを感じられる作品作りをしたいと思っているんです。
今回の沖縄に行く時もそうでしたが、音楽は旅に色を付けてくれます。現地でずっと聞いていた楽曲は、東京に戻ってきてからも耳から離れない。今回、宮里さんと言う方のところを訪ねたんですが、ずっと沖縄で音楽に携わっている方でHi-STANDARDの難波さんが沖縄に住まれていた際に親交が深かったそうです。素朴で明るくて、人柄が素晴らしい。現在70歳なんですが、精力的に活動されている方で音楽に対する知見が深い。今回沖縄でお会いした人の中ではハイライトになりました。旅や音楽、そして写真は新しい人と出会う喜びを与えてくれます。こうして出会う人と人の繋がりってやっぱり美しい、と改めて思えました。毎回ですが、旅に行く前には現地の人の顔を想像していました。でも、ここ最近は想像するのをやめたんです。理由は単純で、きっと素敵な出会いになるはずだから」。
DESTINATION UNKNOWN、リベレイダースの旅は続いていく。